大胆で繊細に。毎日使いたい器「nife arabesque(ニーフェ・アラベスク)」

初めて見るのにどこか懐かしさを感じさせるこちらの器は、眞正陶房(しんせいとうぼう)の安里 貴美枝(あさと きみえ)さんが絵付けを手がける「nife arabesque(ニーフェ・アラベスク)」シリーズです。世代を越えて作り続けられる工芸を目指して、ゆいまーる沖縄オリジナルブランドとして2011年にスタートしました。

「ニーフェ」は沖縄の言葉でありがとうを意味する「にふぇーでーびる」、「アラベスク」は唐草模様を意味する言葉で、自然や人、モノに対する感謝の気持ちを込めてこう名付けられました。

透き通るような白地にハッとするほど鮮やかな青色で描かれた唐草模様の器は、大胆さと繊細さが共存しています。勢いよく描かれた唐草模様は活き活きとした表情をしていて、手に取ると生命力が感じられるほど。

安里さんは「沖縄の空気感が伝わるような青にしたかったんです。ツルを絡ませた花は大きく大胆に、線は細く長く、やわらかく。目指しているのはカッコ良さではなく、野太いような力強さ。野暮にならないギリギリなラインです」と話します。

「かっちりしたものは大手の量産工場がやる仕事だと思っているので、私は手仕事でしか出せない “遊び”を持たせるようにしています。それが“生きた線”に繋がると思うから」と安里さん。ほど良く力が抜けているからか、温かみがあって、親近感が湧きます。下書きをすることなく、一枚一枚手描きされていく器は、ひとつとして同じ表情のものはありません。

もうひとつ安里さんが心がけていることは、使い手の期待に応えること。「器って毎日使うものだから、薄くて軽くて重ねられた方が良いでしょう?」こう話す安里さんは、400年の歴史を誇る沖縄の陶器「やちむん」の伝統を生かしながら、現代のライフスタイルに合ったものを作ることを大事にしているそうです。「それが“工芸の生き残る道”だと思うから。器って使われることで価値が出るものでしょう?」

1日中、壁や幼稚園の黒板に落描きしているような子どもだったという安里さんは、物心ついた頃から将来の方向性が決まっていたと言います。「デザインしたり、制作したり、描いたり…そういう仕事が好きで、アートや芸術と無関係ではなく、使いたいと思うものを考えながら、使いながら、形にしていくのが自分には向いていると思うようになりました」。

「描いている時間が楽しい」という安里さんは、「難儀と思った時も、とにかく描く。描いているうちに筆の状態も心も整ってきて、気が付くとするするする~っと筆が進んでいます。生きていると、面倒くさいことや辛いこともあるけれど、仕事をはじめると忘れられます。いつの間にか嫌な気持ちは消えていて、楽しいまま仕上がっていくんです」

納期に追われている時は12時間以上も同じ作業を続けることもあるそうです。「いくら好きでも、そういう時は少し苦しいですね。でも達成感があって、嫌いではないです。マラソン選手と同じ。こういう日は、終わったら「自分よく頑張ったねー」ってビールを飲みます」と嬉しそうに話す安里さんの笑顔が私は忘れられません。

和洋中、どんな料理も引き立てるニーフェ・アラベスクシリーズの器。丁寧な暮らしに憧れている方はもちろん、料理が苦手な方でも思わず料理をしたくなってしまうような雰囲気があります。あなたはどんなお料理を盛り付けたいですか?

Text&Photo:舘幸子