昭和14年生まれのシーサー作家 湧田 弘(わくた ひろし)さんが手がけるシーサーは、どれも迫力があって生き生きとした表情が印象的。正統派から、逆立ちをした「逆立シーサー」をはじめとして、ジャンプをしている「飛びシーサー」、玉を抱えて立ち上がっている「二足立玉持シーサー」、小さなシーサーがくっ付いている「親子シーサー」などユニークなものまで、バラエティー豊かなシーサーを作陶されています。
こちらの親子シーサーは、親シーサーに子シーサーがじゃれているような“家族愛”が溢れていて、見ているとほのぼの心が温まります。
今年80歳を迎えた湧田さん。陶歴の始まりは、中学卒業後。アルバイト感覚で陶芸の道に足を踏み入れました。親戚も兄弟も陶芸に携わっていたため、この道に進むことは自然な流れだったそうです。親戚である島袋 常恵(しまぶくろ じょうけい)氏に師事し、昼間は島袋陶器所へ、夜は定時制高校へ通うという生活を続けました。
昭和48年に独立し、「湧田陶器」として窯を設立し、独立。最初は“得意先”がなかったため、作ったシーサーを卸すところがなくて大変な思いをすることも。陶器を扱うお土産屋さんに直談判したり、物産展など大都市を始め、県外で実演・出品するうちに、少しずつ取引先が増えていったそうです。「もう辞めたいと何度も思いましたが、そう思っているうちに今日まできてしまいました(笑)。粘り強くコツコツと続けてきて良かった」と湧田さんは話されます。
過去には「沖展賞」「現代沖縄陶芸展技能賞」「那覇市伝統工芸館まつり優秀賞」「沖縄タイムス芸術選賞大賞」など数えきれないほどの賞を受賞され、平成25年には天皇陛下から春の叙勲瑞宝単光賞を受章しました。
毎年、沖縄タイムス社が主催する沖縄県内最大の総合美術展「沖展」に出品されている湧田さんは、沖展会員で審査員も務めています。シーサーに対するこだわりを尋ねると「シーサーは架空の動物と言われていますが、どことなくライオンに近いと思っています。ですから、勢いが感じられるような仕上がりになるよう心がけています」と湧田さん。
「これからもできる限り、自分のペースでシーサーを作り続けていきたいです。今は、次の沖展にどのシーサーを出品しようか考えているところなんです」と嬉しそうに話す湧田さんのウキウキ感が、こちらにも伝わってくるようでした。
text &photo: 舘幸子